sasai
本計画は、三重県松阪市嬉野町中川の住宅街に建つ、8席限定のレストランである。
敷地の近くには川と桜並木があり、春には柔らかな風景が借景として広がる。
この建築は、料理と空間を通して、訪れる人に静かで親密な体験を提供することを目的としている。
そのために、「アプローチの高低差」「包まれる空間構成」「距離の近い厨房と客席」という三つの要素を軸に、
身体的にも感情的にも内へと沈み込むような体験を意図した。
1|上がって、下がる——静けさへの入り口
エントランスは敷地レベルから約1.5メートル高く設定されており、来訪者は石段を登ることで街の喧騒から距離をとる。
建物内に入ると、そこからさらに1.2メートル下がって食事空間へと降りる構成となっており、
身体感覚としての“くぐり”や“籠もり”を体験する。
この起伏によって、心理的な切り替えを自然と促し、内省的な時間へと誘導する。
2|包まれる空間
内部は円形の壁によってゆるやかに囲まれており、外部からの視線や情報を遮断しながら、
天井からの自然光と木の素材感により穏やかなぬくもりと落ち着きが漂う。
これは、シェフが意図する「家庭の延長として、リラックスしながら料理を楽しんでもらう場」を空間的に具現化したものである。
3|距離の近さが生む親密性
8席のみのカウンターは、シェフの所作や香り、音までもが共有される構成であり、料理を媒介にした親密な対話を生む。
一斉スタートのコース制とすることで、来訪者同士の時間のリズムも揃い、個人の体験が同時に場の一体感を生み出すよう設計されている。
4|誰もが受け入れられる構え
石段を主体としたアプローチとは別に、車椅子にも対応したルートを確保しており、
あらゆる来訪者を受け入れる柔らかさと配慮を備える。
5|雨もまた、風景になる
深い軒先からしたたり落ちる雨は、雨樋によって処理されるのではなく、
自然のままに垂直の線を描く風景として存在している。
それは、訪れるたびに変わる表情を持ち、この場所で過ごすひとときを豊かな時間に変えてくれる。